吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』

No.55
成長性を評価する定量指標(1)

2025年01月23日号

投資工学開発部
吉野 貴晶

金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。

  • 5つの収益性や資本効率性の改善を合成する“収益性スコア”。
  • 長期的には銘柄選択効果が堅調な戦略

一般に、企業の将来の成長性を示す尺度を定量化することは難しいとされています。今年度や来年度といった比較的近い将来の成長に関しては、予想利益の伸び率などが成長性指標として使われます。例えば、営業増益率が足元の成長性を示す代表的な指標です。しかし、長期的な株式投資のスタンスでは、より遠い将来の成長に着目する必要があります。今号では、“成長性を評価する定量指標”の第1回目として、アスネス、フラッツィーニとペダーソンが世界的な会計の学術誌で公表した成長性の指標(スコア)に関して、我が国の株式市場で銘柄選択効果を検証しました。

具体的な成長性スコアの内容は図表1になります。先ずは、図表1に従って各企業のΔgpoa 、Δroe 、Δroa 、Δcfoa 、Δgmarの5指標を計算します。これらは原論文から計算しやすいように一部、修正を加えています。

図表1.成長性スコア

  • (注)いずれの指標も5年間の変化を算出する。ΔroeとΔroaは来期予想利益を用いたroeとroaと3年前の実績roeとroaを比較するため5年間の変化を捉えている。
  • 出所:Asness, Frazzini & Pedersen論文を基に、ニッセイアセットマネジメント作成
指標名 内容
Δgpoa 直近実績売上総利益/期首期末平均総資産-5年前の売上総利益/5年前時点の期首期末平均総資産
Δroe 来期予想純利益/期首自己資本-3年前の純利益/3年前の期首期末平均自己資本
Δroa 来期予想営業利益/期首総資産-3年前の営業利益/3年前の期首期末平均総資産
Δcfoa 直近実績CF/期首期末平均総資産-5年前のCF/5年前の期首期末平均総資産
Δgmar 直近実績売上総利益/売上高-5年前の売上総利益/5年前の売上高

次に、それぞれの指標について、分析対象銘柄を横断的に見て下式を使って標準化を行います。今回、分析対象の母数はTOPIX(東証株価指数)構成銘柄(金融業を除く)とします。下式右辺の分子と分母では、それぞれの指標の母数を対象に計算した平均値と標準偏差を使います。最後に、標準化した5つの指標を銘柄毎に平均します。こうして、それぞれの銘柄の成長性スコアを求められます。

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そこで実際の成長性スコアの投資尺度としての効果を見てみましょう。具体的な検証方法は次の通りです。まずは、2010年末から、毎月末にTOPIX(東証株価指数)構成銘柄(金融業を除く)を対象に、その月末時点で取得できる情報を用いて、図表1の5指標を求めます。更に上式で求めた標準化指標を平均して成長性スコアを計算し、上位20%までの銘柄を抽出します。こうして選んだ銘柄に等金額投資したポートフォリオの翌月のリターンを求め、分析対象とした銘柄全体に等金額投資した場合のリターンを引いて超過部分を計算します。超過リターンを計算する理由は、分析対象銘柄全体の平均的なリターンと比べて、成長性スコアが高い銘柄のリターンがどの程度上回っているかを見るためです。図表2では、検証期間のエンドとなる2024年12月まで、2011年以降の超過リターンを毎月累積した推移を示しています。

図表2.成長性スコアが高い銘柄の株式リターン

  • 注1:分析期間は2011年1月から2024年12月まで。TOPIX構成銘柄を対象(但し、金融業:銀行、証券、保険とその他金融を除く)。
  • 注2:対象銘柄につき毎月末時点で明らかとなる情報を用いて、成長性スコアと比較のために用いた今期予想営業増益率について、それぞれ高い方から20%の銘柄群に分類して、該当する銘柄への等金額投資とする。グラフは、同月の全対象銘柄全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求める。そして、2011年1月から累積している。
  • 注3:利益の予想は東洋経済新報社の予想値を用いている。
  • 出所:東京証券取引所と東洋経済新報社のデータを基に、ニッセイアセットマネジメント作成

図表2の結果から、成長性スコアが高い銘柄の累積超過リターン(赤線)の値が基本的に右肩上がりとなっていることは、当スコアの銘柄選択効果が高いことを示しています。また、比較のために冒頭でも触れた成長性指標の1つである営業増益率の累積超過リターン(青線)を上回っていることも注目されます。

成長性スコアは図表1で示したΔgpoa 、Δroe 、Δroa 、Δcfoa 、Δgmarの5指標で構成されますが、これらの特徴について掘り下げて確認しましょう。これらの5指標は何れも“Δ:デルタ”がついており5年間の変化を計算しています。企業の成長性は、財務情報の改善により捉えられるという考えが背後にあります。そして指標の算出には可能な限り将来の予想値を用います。ΔroeとΔroa の計算には、来期予想の利益を用います。 Δcfoaは、キャシュフローベースで見た収益性の変化、 Δgmarでは利益率の変化を捉えます。このように単一指標でなく、複数の財務情報により収益性や資本効率性の改善を評価することが企業の将来の成長性を捉える上で効果があると見られます。

とは言うものの、成長性スコアが高い銘柄の累積超過リターンは基本的には右肩上がりですが、変動も小さくありません。銘柄選択効果が厳しい場面も見られます。本シリーズ(成長性を評価する定量指標)の次号以降では、別の成長性指標や、成長性指標の効果的な合成方法などを紹介して、銘柄選択効果の変動を抑える方法も検討します。

参考文献

  • C. S. Asness, A. Frazzini and L. H. Pedersen, "Quality minus junk," Review of Accounting Studies, pp. 34-112, March 2019.

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