アナリストの眼

KDDIがローソンと挑む「ソーシャル・インパクト」は、株主の期待に応えられるか?

掲載日:2024年11月18日

アナリスト

投資調査室 醒井 周太

2024年2月、KDDIは、ローソンへ5000億円弱出資をし、三菱商事と共同経営することを発表した。株式マーケットは、この提携戦略は失敗するとみて、発表後KDDIの株価は下落。春にかけて、日経平均が4万円を目指す中でも、アンダーパフォームを続けた。ただし、株価は20%近く下落した6月を底に、秋にかけて値を戻し、9カ月たった現在、買収発表前の株価を上回る水準にまで回復している。

当初の下落の原因は明白で、通信事業者KDDIが、コンビニというかけはなれた事業領域に「5000億円もの巨額」の投資をしてシナジー効果が見いだせるとは、市場参加者には理解されなかったためである。一方、株価が戻った理由は、徐々に協業する意味合いが明らかになり、資本コスト回収(※)の絵が見えてきたことにあるだろう。

  • 資本コスト:企業が資本を調達するために支払うコスト。転じて、KDDIがローソンへの出資の際に、その投資に対して、必要とされる最低限のリターン水準のこと。

KDDIは、金融決済分野、およびポイントマーケティング分野で、ソフトバンク・NTTドコモ・楽天等の競合他社に大きく後れをとっていた。一方ローソンは、Pontaという1億人以上のポイント会員基盤を有しており、ローソンと協業出来れば、この分野で差を縮めることができるという機会がある。
手始めに、auブランド(正確には「auスマートパスプレミアム」)で展開していたサブスクリプションサービス(※)を、「Pontaパス」にリブランドし、相乗効果を上げる戦略を採用した。具体的には、現在の1500万人会員を2000万人へと+33%も成長させる方針である。

  • サブスクリプションサービス:月額や年額といった定額料金を支払うことで一定期間、商品やサービスを利用できる仕組みのこと。

この戦略を公表したことで、投資額はおよそ回収できる、ひとまず「損はしないらしい(=資本コスト分のリターンは確保できる)というのが見えてきた」、というのが、買収発表前の水準まで株価が戻している理由といえよう。加えて、ローソンや三菱商事との複雑な交渉が要らず、KDDIの自社内での取り組みだけで実施できることで、速やかに実行される点も評価されてきたのだろう。

では、ここから先はどうするのか?
KDDIは、巨額買収した意義(プラス効果)は見いだせるのか?がこれから市場参加者に問われることになるだろう。

9月に行われた記者会見によると、KDDI・ローソン・三菱商事3社によるワーキング・グループが検討されており、具体的な協業計画の方向性が、少しずつ見えてきている。具体的な取り組みとして、一番にあがってきたのは、シンプルに、KDDIの情報通信テクノロジーを、リアル店舗運営に活用した「未来のコンビニ」というテーマである。

AIを活用したスマホレジ(※)や、デジタルサイネージ(電子掲示板)などの導入を、2025年春に移転予定の高輪ゲートウェイのKDDI新社屋に、ローソンの実験店舗を設置し、実証実験を行うべく準備を進めている。ローソンはこうしたDX(デジタル化)や省人化対策を通じて、2030年度までに店舗オペレーションを30%削減する目標を掲げている。奏功すればコストダウンによる増益要因が見込まれるだろう。

  • スマホレジ;スマートフォンをキャッシュレジスターの替わりとして利用することで消費者の利便性と店舗側の効率性を高めるための技術・仕組みのこと。

もう一つ、具体的に進んでいる事業として、個人的に注目しているのは、テクノロジーを活用した「地域防災コンビニ」という取り組みである。

KDDIは、年初の能登半島地震の際、600台ものStarlink(※)をすみやかに配置し、避難所でのWi-Fiサービスの提供など、通信手段を提供したことで、注目された。そこに、ローソンというリアルな基盤を持ったことで、地方自治体と連携した、地域防災事業の取り組みがはじまっている。

  • Starlink(スターリンク):高度500キロメートル程度の低い高度を回る衛星を使って通信網を構築した衛星通信サービス。イーロン・マスク氏が率いるスペースX社が手掛けているプロジェクト。

ローソン店舗に、Starlinkやドローンを配置し、災害時には、Starlinkで通信ネットワークを提供、ドローンで河川や道路の状況把握等、さまざまな面で、地域を支える体制を整える。まずは、石川県と実証実験をスタートすべく、包括提携協定を締結した。また、平時にも、ドローンを使った周辺パトロール等、地域安全の強化に向けた役割や、地域交通コンビニとして、オンデマンド乗合交通(※)の拠点とし、過疎地の移動支援事業に取り組むことも検討しており、広く、地域社会の課題解決に貢献する事業展開を、進めようとしている。

  • オンデマンド乗合交通;オンデマンド乗合交通とは、利用者の予約に応じて運行する乗り合い型の公共交通サービスのこと。今回、コンビニエンスを町の「バス停」のように活用することで、取組を促進している。

これらは、KDDIが持つ、通信・インターネット・DX(デジタル化)・AI(人工知能)の技術と、コンビニエンスが持つ「リアル」の事業基盤を掛け合わせることで、KDDI単体では難しい、”ソーシャル・インパクト(社会貢献意義)”のある事業領域での未来像を描きだしていると言えるだろう。

まだまだ、当面は、絵に描いた餅、実験の領域を出ないとは想定されるが、軌道にのれば、当初、”失敗”と見られた5000億円の投資は、先見の明のある”大いに有意義な投資”と評価されるであろう。
楽しみに注視したい。

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