吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
No.33
”ダウの犬投資法“を日本株で適用した戦略
2022年05月23日号
投資工学開発部
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
- TOPIXコア30指数を使った日本版ダウの犬投資法。
- 5銘柄バージョンのほうが、よりパフォーマンスが良好。
米国で広く知られる株式の投資銘柄を選ぶ手法として”ダウの犬投資法”があります。現在、オヒギンズアセットマネジメントの代表兼運用最高責任者を務めるマイケル・オヒギンズ(Michael B. O‘Higgins)が、1991年に出版した著書「Beating the Dow(ダウ平均を打ち負かす)」※1の中で紹介した手法で、シンプルに高配当利回り銘柄に投資するという戦略です。犬(Dogs)とは、ここでは、配当利回りが高くなるほど株価が割安になっていることを意味します。足元の株式市場を取り巻く環境は、米国の利上げ観測やロシアのウクライナ侵攻などの不透明要因がある一方で、下値では押し目買いが根強く、株式市場はボックス圏での動きが続いています。こうした相場では、株式の値上がり益を期待する投資よりも、配当に着目した高配当利回り株への投資が効果的とも考えられます。そこで今回はダウの犬投資法を取り上げました。まずは、ダウの犬投資法はどのように行うのか、確認していきましょう。
- 年末時点でNYダウに採用されている30銘柄から、配当利回りの高い順に上位の10銘柄を選別します。
- 上位10銘柄それぞれに、均等に投資を行います。そして1年間そのままポジションを変更しません。
- 1年後の年末に、再びNYダウ採用銘柄から配当利回りの高い上位10銘柄を選別し、均等額投資のリバランスを行います。
ダウの犬投資法は米国のNYダウ構成銘柄を投資対象とするため、日本株で似たようなルールを考えてみます。ここではTOPIXコア30指数を使います。TOPIXコア30指数は、東証上場銘柄のうち時価総額、流動性が特に高い30銘柄で、日本のリーディングカンパニーで構成されています。銘柄の顔ぶれは東証のウエブサイト※2の「規模別株価指数・TOPIXニューインデックスシリーズ」の構成銘柄の項目から確認することができます。投資対象となる銘柄以外は、米国のダウの犬投資法と同じ方法をとります。
「日本版ダウの犬投資法」は次の通りです。
- 年末時点でTOPIXコア30に採用されている30銘柄から、配当利回りの高い順に上位の10銘柄を選別します。ここで用いる1株当たり配当額は、東洋経済新報社が予想する今期予想ベースとします。
- 上位10銘柄それぞれに、均等に投資を行います。そして1年間そのままポジションを変更しません。
- 1年後の年末に、再びTOPIXコア30採用銘柄から配当利回りの高い上位10銘柄を選別し、均等額投資のリバランスを行います。
それでは日本版ダウの犬投資法が、どの程度効果的な戦略かを検証しましょう。2006年末をスタートに、上述の日本版ダウの犬投資法を行います。そして翌年以降、年間のリターンを累積しました。(図表1)
TOPIX(配当込み)の年間累積リターンとパフォーマンスを比較すると、日本版ダウの犬戦略(10銘柄)は大きく上回っています。また、ダウの犬投資法で選ばれなかったコア30の残り20銘柄で、同様に毎年末に均等額投資のリバランスをした場合の累積リターンを見ましたが、こちらはTOPIXより劣後しています。つまり、配当利回りを使ってコア30から10銘柄を選別したことが効果的であったことが分かります。なぜ、このように日本版ダウの犬戦略が効果的だったのでしょうか。単純に高配当利回り銘柄を選ぶと、株価が下がってしまうリスクがあります。そこで日本を代表するコア30企業にユニバースを絞ることで、このようなリスクをある程度限定することが銘柄選択効果につながったとみられます。さらに、図表1には上位5銘柄投資で日本版ダウの犬投資法を行った場合のパフォーマンスも示しました。5銘柄投資では、投資に必要な資金が少なく済むだけでなく、累積リターンも10銘柄投資を上回っていました。銘柄数が少なくなれば分散効果面でのリスクは負いますが、パフォーマンスが優れていたことは注目されます。
ところで、ダウの犬投資法では毎年1回、年末に銘柄を選んでリバランスを行います。リバランスを年間1回とする理由は、リバランスによる売買にかかるコストを抑えるという目的があります。ただ、毎年1回のリバランスを別の月に行うという戦略も効果的かもしれません。そこで、5銘柄投資ベースの日本版ダウの犬戦略について、先ほどと同じ期間で、投資開始月を別の月とした場合の年間パフォーマンスの平均値を算出して棒グラフ化しました。(図表2)
ここでは、TOPIX(配当込み)に対する年間の超過リターンを平均しています。最も超過リターンが高い4.75%の“1月開始”は、図表1でも示した年末リバランスのベーシックなパターンです(日本版ダウの犬戦略(10銘柄)でも同様に1月開始が最も効果的でした)。ここで留意したい点は、意外にも他の月ではTOPIXを下回るケースがみられたことです。
では、なぜ1月開始が最も好パフォーマンスとなる傾向があるのでしょうか。これは年末に高配当利回り株に投資をすることで、3月の年度末に向けた高配当利回り株アノマリーを1月から十分に享受できるからだと考えられます。高配当利回り株アノマリーというと、期末の現金配当を得る目的で3月に起こるアノマリーと言われることが多いのですが、実際には1月から効果が見られています。こうしたアノマリーを背景に、年末に選んだ高配当利回り株は3月の年度末に向けて株価が上昇した後も、そのまま年末にかけてTOPIXと比べて、より上昇トレンドを持続しやすい傾向があるようです。
ところで、これまで図表2を使って投資開始月を変えた場合の日本版ダウの犬戦略について、TOPIXとの比較を見てきました。しかし、同戦略を絶対リターンで見ると、年間リターンの平均値はどの開始月でもある程度のリターンを得られることが分かりました。(図表3)絶対リターンという観点からは、日本版ダウの犬戦略の投資開始月を変えてみる戦略も一考に値するかもしれません。
- 参考文献:Beating the Dow(HarperCollins, 1991)
- 東証のウエブサイト
吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
関連記事
- 2024年04月09日号
- 取り崩し可能期間の概算について
- 2024年04月04日号
- 【アナリストの眼】「PBR1倍割れ脱却」の対話は国益に資するのか
- 2024年03月12日号
- “PBR是正要請”に対する開示企業の株価
- 2024年02月13日号
- 注目のDOEを用いた投資戦略の効果(2)
「吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』」ご利用にあたっての留意点
当資料は、市場環境に関する情報の提供を目的として、ニッセイアセットマネジメントが作成したものであり、特定の有価証券等の勧誘を目的とするものではありません。
【当資料に関する留意点】
- 当資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて作成しておりますが、情報の正確性、完全性を保証するものではありません。
- 当資料のグラフ・数値等はあくまでも過去の実績であり、将来の投資収益を示唆あるいは保証するものではありません。また税金・手数料等を考慮しておりませんので、実質的な投資成果を示すものではありません。
- 当資料のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
- 手数料や報酬等の種類ごとの金額及びその合計額については、具体的な商品を勧誘するものではないので、表示することができません。
- 投資する有価証券の価格の変動等により損失を生じるおそれがあります。