吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
No.21
「なでしこ銘柄」選定後の株式パフォーマンス
2021年04月27日号
投資工学開発部
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
- 新たに「なでしこ銘柄」に選ばれた企業の株式パフォーマンスは良好。
- 女性活躍の推進に優れている企業の株式パフォーマンスが良いことには、4つの理由がある。
3月22日、経済産業省と東京証券取引所は、東証の上場企業の中から45社を女性活躍推進に優れた「なでしこ銘柄」に選定したと発表しました。なでしこ銘柄は2012年度に始まってから毎年公表されており、今回で9回目となります。選ばれた銘柄、選定基準についてはウェブサイト※で示されていますが、基準の趣旨は、『女性が働き続けるための環境整備を含め、女性人材の活用を積極的に進めているか』ということです。女性活躍推進に優れた企業は「中長期の企業価値向上」を重視しており、投資家にとって魅力ある企業であるということが指摘されています。そこで今回は、過去のなでしこ銘柄の選定後の株式パフォーマンスがどのように推移したのかを調べて見ました。
- 経済産業省のウェブサイト(女性活躍に優れた上場企業を選定「なでしこ銘柄」)を参照。
実際の分析は次のように行いました。過去のなでしこ銘柄も、年度末の3月にかけて公表されています。ですから選定後のパフォーマンスの分析は、翌年度の4月以降で集計します。分析では4月からの翌年3月までの1年間と、翌々年3月までの2年間の対TOPIX(配当込み)超過リターンを平均しました。TOPIXに対する超過を見るのは市場全体の変動の影響を除くためです。相場全体より、なでしこ銘柄のパフォーマンスが平均的にどうなったかを見ています。
分析結果は表1の通りです。1年後までの1年間、2年後までの2年間で共に平均超過パフォーマンスがプラスとなっています。なでしこ銘柄の選定後の株式パフォーマンスは平均的に良好でした。
とは言え、少し気になる点もあります。それは、1年後に比べて2年後までのリターンが小さくなっていることです。表2ではもう少し分析を深堀りしてみました。なでしこ銘柄のうち、“前年から連続して選ばれた企業”と“前年は非選定だった銘柄”に分けて集計しています。その結果、”前年は非選定だった銘柄“は2年後までも+4.21%と好パフォーマンスでした。ですので、銘柄選別の観点で言えば、女性活躍推進が評価されて新たに、なでしこ銘柄に選ばれた銘柄に注目する方が良いのかもしれません。連続して選ばれた銘柄は、株価にある程度反映されている可能性があるようです。
表1:なでしこ銘柄選定の翌年度からの平均対TOPIX超過パフォーマンス
1年後まで | 2年後まで |
---|---|
1.56% | 1.36% |
表2:連続選定銘柄と前年非選定銘柄に分類した場合の平均対TOPIX超過パフォーマンス
1年後まで | 2年後まで | |
---|---|---|
連続選定 | 1.89% | -0.33% |
前年は非選定 | 2.22% | 4.21% |
さて、実際に女性活躍を推進するなでしこ銘柄のパフォーマンスが良い理由は何なのでしょう。企業価値の向上につながるというのは、具体的に以下のような点が挙げらえます。
- 女性活躍を推進する企業には、女性に限らずに社員の能力を活かして企業の事業活動をより良くしていこうという経営姿勢の強さがあること。
- 性別に関わらず仕事の機会を与えることは、労働コスト対比で能力の高い人材確保に繋がること。
- 仕事と生活の両立を考えた環境を提供することで、従業員のモチベーションを高めること。
- 投資家が女性の活躍推進企業に注目を集めていることから、株式の好需給が生まれること。
女性の活躍推進に関しては、例えば、女性の役員比率や育児休暇制度の充実など様々な観点で評価する必要があるとされています。とは言え、なでしこ銘柄というシンプルな切り口での銘柄選別でもパフォーマンスが良いことは注目されますね。
吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
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