金融市場NOW
コロナ禍で進展が期待される人間開発
2021年10月01日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
SDGs達成の手段を提供する人間開発
- 持続可能な開発目標達成に向けた一つの手段として「人間開発」の取り組みが必要とされる。国連開発計画は、社会の豊かさや進歩を測る指標として人間開発指数を算出・公表している。
- 今後景気回復が期待される中、コロナ禍で停滞する人間開発は新たな手法による取り組みが期待される。
SDGsと人間開発
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載の2030年までに持続可能でより良い世界を目指す目標です。SDGs達成のための一つの手段を提供するのが、「人間開発」への取り組みとされています。国連開発計画(UNDP)は1990年から人間開発報告書を公表し、経済指標だけではない社会の豊かさや進歩を測る包括的な社会経済指標として、人間開発指数(表1)を算出しています。
人間開発指数は、健康長寿、知識、人間らしい生活水準における平均的な達成度を測定する指数とされます。国内総生産(GDP)などはその国の所得を示すだけで、所得がどのように分配されているかはわかりません。所得が低くても、国民の健康や教育など人間を中心とした開発に、予算が投じられていれば指数は高くなります。
表1:人間開発指数上位ランキング(2019年)
国・地域名 | 人間開発指数 | |
---|---|---|
1位 | ノルウェー | 0.957 |
2位 | アイルランド | 0.955 |
2位 | スイス | 0.955 |
4位 | 香港 | 0.949 |
4位 | アイスランド | 0.949 |
19位 | 日本 | 0.919 |
コロナ禍は人間開発に影響
新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の停滞が、多くの人々の健康や教育、生活などに大きな影響を及ぼしていることが想定されます。新興国を中心とした一部の国では、パンデミック(感染症の世界的大流行)がもたらす経済面での悪影響(金融、貿易、労働者の移動制限など)が、より深刻になると考えられます。コロナ前においても、貧困率は地域に偏りがみられたものの(表2)、コロナ禍の影響で貧困率の高い地域を中心に新たに4,000~6,000万人が極度の貧困状態に陥ると見られています。
コロナ禍により学校の閉鎖、失業者増加による生活水準の低下など人間開発への取り組みは停滞し、これまで数十年に亘り蓄積してきた成果が失われる可能性も指摘されています。人間開発の停滞は、SDGs達成に向けた様々な取り組みが、コロナ禍の影響で足踏み状態となっていることを示していると思われます。
表2:地域別貧困率※(2019年)
地域 | 貧困率 |
---|---|
サハラ砂漠以南アフリカ | 55.0% |
南アジア | 29.2% |
アラブ諸国 | 15.8% |
南米・中米 | 7.2% |
東アジア・太平洋地域 | 5.4% |
欧州・中央アジア | 1.0% |
パンデミックの経験が政策構築に生かされるか
UNDPは「新型コロナウイルスと人間開発」報告書の中で、過去の経験則から、パンデミックの影響とその対応は、何世代にもわたって世界を再構築する可能性があるとしており、「持続可能な開発目標」の達成に向けた新たな政策構築の助けになるとしています。
停滞する人間開発への取り組みは、パンデミックを経験したことで、新たな方法や政策により改善されていくことが期待されます。各国の経済支援による弱者救済策、新興国へのワクチン供給などの協調体制の構築など、経済活動の正常化が徐々に進みつつあると見られる現在、持続可能な目標達成に向けた取り組みは、今後新たな形で加速していくことが期待されます。
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