金融市場NOW
英・EU双方に景気低迷リスクが漂う中で続く交渉
2020年12月02日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
コロナ禍に加え、関税賦課による更なる経済への打撃を回避できるか
- 英国・EU(欧州連合)の通商協定協議は年内の合意を目指し交渉が続く。
- 英国・EUともにコロナ禍で景気低迷が想定される中、関税賦課は経済に更なる打撃をあたえる。期限が迫る中でも、市場は反応を見せないが交渉決裂により状況が一変する可能性も。
合意できれば28日の欧州議会で年内承認か
年内の合意を目指し、継続されている英国とEUの通商協定交渉は、いくつかの項目で進展がみられたものの、漁業権や企業への補助金など重要項目で双方の主張に隔たりがある模様です。2021年1月1日から双方の貿易品に関税が賦課されることで経済への悪影響が及ぶことを避けるためには、12月10日のEU理事会までに合意が必要と見られています。合意に至れば、英国内でも手続きが進められ、28日の臨時欧州議会での承認が可能となり、来年初より発効されることとなります。
表1:交渉日程等
日程 | 内容 |
---|---|
2020年11月28日 | 感染拡大により中断されていた交渉を再開 |
2020年12月10日 | EU理事会 |
2020年12月28日 | (臨時招集)欧州議会?(合意内容の承認) |
2020年12月31日 | 移行期間終了 |
2021年1月1日 | (通商協定がない場合)英・EU間貿易品に関税賦課開始 |
構造的な経済危機のリスクに晒される英国!?
11月24日英国一部報道機関から、英政府作成の機密文書の一部が明らかにされました。文書は、医療、警察など20分野に亘った見通しが示され、包括的な通商協定なしで新年を迎えた場合の、英国経済・国民に与える影響(最悪のシナリオ)が挙げられています。税関検査発生による物流の混乱から、生鮮食品の供給量が減り価格が高騰し、コロナ禍で失業した労働者などへ更なる負担が増すとされています。また、医療現場においても、医薬品の供給量が最悪で通常の60~80%となることも報告されました。ビジネス全体への影響も危惧され、コロナ禍で経済活動が停滞する中で、特に製造業は関税賦課により大きな打撃を受けることが想定されています。英政府は実質GDP(国内総生産)成長率見通しを2020年は前年比-11.3%、2021年は同+5.5%とし、2022年末まで経済規模はコロナ前の水準に回復しないと公表しました。見通しは通商協定締結を前提とした予測値であり、締結がなければ更なる景気低迷が予想されます。
ユーロ圏経済もマイナス成長見通し
欧州委員会は、ユーロ圏の2020年10~12月の実質GDP成長率見通しを、前期比-0.1%と2四半期ぶりにマイナス成長になるとしました。感染再拡大による経済活動の停滞から、回復基調にあった景気の二番底が現実味を帯びてきています。主要相手国である英国との貿易品への関税賦課は、経済活動へ更なる打撃となり得ると思われます。
交渉難航に市場は反応を見せないが・・
英ポンドはEU離脱問題を巡る混乱やコロナ禍から英ポンド安(対米ドル)で推移していましたが、直近ではワクチンの実用化期待を受けて上昇しています。またユーロは、コロナ禍による緊急的な米ドル需要の一服感などからユーロ高(対米ドル)で推移しています。マイナス成長が想定される中での、ユーロ高は、輸出の下振れに繋がる可能性があるため、更なる景気減速を招くものとして金融当局もけん制する発言を行っています。一方で、年末まで残り1カ月となる中での協議難航に、為替を始め市場の反応は限定的です。差し迫った経済環境を踏まえ、最終的には合意に至るとの楽観的な見方が大勢を占めているものと思われます。しかし交渉決裂となれば、足元の過剰流動性環境下でのリスク選好姿勢が一変することにも注意しておくことが必要と思われます。
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