金融市場NOW
国内株式需給について(公的年金の投資余力等)
2015年12月17日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
(1)公的年金の国内株式等への投資余力
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)と3共済(国家公務員共済、地方公務員共済、私学共済)について、現時点で把握可能な運用資産残高等を基に、その後の新たな売買や市場の変動がないと仮定して、国内株式等への投資余力を試算しました。
各資産への投資余力は、各公的年金の基本ポート(目処とする組入れ比率)到達時の想定額(実績資産合計額×基本ポートにおける各資産の組入れ比率)と実績残高との差額で示しています。尚、基本ポート到達の時期については明らかにされておらず、どの程度のスピードで基本ポートに近づけていくのかは不明です。
(1)-1:GPIF
国内株式への投資余力は約3.4兆円。基本ポートの変更(債券から株式へのシフト)により、国内株式の構成比は2014年3月末時点の約17%から2015年9月末時点では約22%まで上昇。基本ポート(25%)との差は3%程度と、一時期に比べると国内株式への投資余力は低下しています。
表1:GPIFの運用資産額と投資余力
2015年9月末 | 基本ポート構成比** | 基本ポートに 到達時の資産額(2)* |
差額(2)-(1)* | ||
---|---|---|---|---|---|
資産額(1)* | 構成比** | ||||
国内債券 | 52.6 | 40.8 | 35 | 45.2 | -7.4 |
国内株式 | 28.8 | 22.3 | 25 | 32.3 | 3.4 |
外国債券 | 18.4 | 14.2 | 15 | 19.4 | 1.0 |
外国株式 | 29.2 | 22.7 | 25 | 32.3 | 3.0 |
合計 | 129.1 | 100.0 | 100 | 129.1 | 0.0 |
(1)-2:3共済
GPIFと同じ基本ポートを用いる3共済の国内株式への投資余力は約1.8兆円。尚、同資産の構成比率は2015年3月末で約19%と、基本ポートの25%を約6%下回っています。
表2:3共済の運用資産額と投資余力
2015年3月末 | 基本ポート 構成比** | 基本ポート 達成時の 資産額(2)* | 差額 (2)-(1)* | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
国家公務員 共済* | 地方公務員 共済* | 私学共済* | 合計資産額(1)* | 構成比** | ||||
国内債券 | 5.2 | 10.6 | 2.1 | 18.0 | 56.1 | 35 | 11.2 | -6.7 |
国内株式 | 1.0 | 4.5 | 0.6 | 6.2 | 19.2 | 25 | 8.0 | 1.8 |
外国債券 | 0.2 | 2.4 | 0.6 | 3.2 | 9.9 | 15 | 4.8 | 1.6 |
外国株式 | 1.0 | 3.2 | 0.6 | 4.7 | 14.8 | 25 | 8.0 | 3.3 |
合計 | 7.3 | 20.8 | 3.9 | 32.0 | 100.0 | 100 | 32.0 | 0.0 |
(2)ゆうちょ銀行とかんぽ生命の国内株式等への投資余力
ゆうちょ銀行とかんぽ生命は、運用資産額の増額やリスク性資産の比率引上げを表明しています。国内株式等各資産にどの程度資金が振り向けられるのかは不明です。
(2)-1:ゆうちょ銀行
ゆうちょ銀行は2018年3月までにサテライトポートフォリオ(※)を60兆円まで拡大させる計画を公表しています。2015年9月末時点では約56兆円で、2015年4~9月の間に外国債券を約8兆円買い増しています。
- 主に信用リスクを取ることで期間収益を確保する、また、市場リスクに分散投資することにより中期的な総合収益を確保することを目的とするポートフォリオ。
表3:ゆうちょ銀行の運用資産額(サテライトポートフォリオ)
2015年9月末 | ||
---|---|---|
資産額(兆円) | 構成比(%) | |
地方債・社債等 | 11.8 | 21.1 |
外国債券 | 41.0 | 73.1 |
貸出金 | 1.1 | 1.9 |
金銭の信託(株式) | 2.2 | 3.9 |
合計 | 56.1 | 100.0 |
(2)-2:かんぽ生命
国内株式や海外株式等で構成されるリスク性資産の総資産に占める比率を2015年3月末の4.0%から2018年3月末までに10%に引き上げる方針を示しています。2015年9月末時点では約6.1%です。
表4:かんぽ生命の運用資産額
2015年9月末 | ||
---|---|---|
資産額(兆円) | 構成比(%) | |
リスク資産合計 | 5.2 | 6.1 |
国内株式 | 1.2 | 1.4 |
海外株式 | 0.2 | 0.3 |
外国債券等 | 3.8 | 4.5 |
合計 | 84.7 | - |
(3)日銀によるETF(上場投資信託)買入れ
日銀は2014年10月31日に追加の金融緩和を決定。日本株と連動するETFの購入額目処を従来の3倍に増やし、年間約3兆円ペースとしました。2015年年間の買入れ額は12月14日時点で約2.97兆円と年間目処近くに達しています。
2016年の年間買入れ目処は現時点では約3兆円ですが、今後追加金融緩和が行われ、買入れ枠が増額される可能性もあるものと思われます。
(4)(大人)NISAの上限引き上げとジュニア(子供)NISAのスタート
2016年1月から(大人)NISAの非課税投資枠がこれまでの年100万円から年120万円に引き上げられます。また、日本在住の0~19歳までの子供1人につき年間80万円まで非課税(非課税期間5年)で投資できるジュニア(子供)NISA(少額投資非課税制度)が2016年4月からスタート(受付開始は2016年1月から)します。
NISA資金の株式市場等への流入額が増加することも考えられます。
(5)定額貯金の集中満期
2006年の日銀のゼロ金利政策解除により預金金利が上昇し(※)、定額貯金への預入額が増加しました。ゆうちょ銀行の開示資料によれば、2006年度が約22兆円、2007年度が約16兆円となっています。10年経過後の2016年度から数年間は満期が集中し、多い年には年10兆円近くが満期を迎えるとの見方もあります。満期資金が国内株式市場等に流入する可能性もありそうです。
- 預入期間3年以上の定額貯金の金利は、2006年5月の0.15%から同年7月には0.30%に上昇。
(6)2017年からの個人型確定拠出年金(個人型DC)改正
2017年から、専業主婦(夫)、公務員、勤め先に企業年金のある会社員も個人型確定拠出年金に加入出来るようになります。
確定拠出年金は運用成績によって将来受け取る年金額が変わる制度です。加入者の拠出額は全額所得控除されるといった特徴があります。
仮に上記の利用可能となる対象者全員が年間上限まで拠出したとすると、年間の拠出額は約5.2兆円となります。
また、利用者が対象者の3割として、年間上限まで拠出し、GPIFや3共済の基本ポートに沿って25%が国内株式に投資された場合、その投資額は年間約4,000億円となります。
2017年が近づくにつれ、当制度改正による国内株式市場の需給改善期待等が高まることも考えられます。
表5:個人型確定拠出年金改正と年間拠出額推計
◎は2017年から加入が可能に | 企業型 | 個人型 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
確定給付年金 | 確定拠出年金 | 確定拠出年金 | 対象者(1) (万人) | 年間拠出 上限(2) (千円) | 年間拠出 (1)×(2) (兆円) | |
会社員(勤め先に企業年金無し | × | × | ○ | 2,100 | - | - |
会社員(勤め先に企業年金あり) | ○ | ○ | ◎ | 1,300 | ※ | 2.0 |
夫(妻)が会社員の専業主婦(夫) | × | × | ◎ | 945 | 276 | 2.6 |
公務員 | × | × | ◎ | 440 | 144 | 0.6 |
自営業者等 | × | × | ○ | 1,860 | - | - |
合計 | - | - | - | - | - | 5.2 |
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