吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
業種別に見たミクロ・サプライズ指数
2021年12月07日号
投資工学開発部
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
- 東証1部全体のミクロ・サプライズ指数の“水準”は高いが、”方向”は下落が見られ物色の選別には注意が必要
- 業種別では医薬品、精密機械、小売り業などが上位として注目される
2021年度3月期の第2Q決算発表シーズンが終わりました。コロナ禍で大幅に落ち込んだ昨年度からの業績のリバウンドもあり、上場企業トータルで見ると好調な決算となりました。しかし、業種別に見ると好調な業種と、依然としてコロナ禍の影響から抜け出せない業種の二極化が見られました。好調な業種は、IT投資の需要が続くなかで順調な情報・通信業やサービス業、世界的な景気回復の流れで荷動き需要の活発化を背景とした海運業などがあります。このように好調な業種といっても、コロナ禍の環境でも継続して好調だった業種と、コロナ禍からのリバウンドが期待される業種の2つに分類されます。
一方、依然としてコロナ禍の状況を引きずっている空運業は原油価格上昇などの影響もあり厳しい状況が続いています。我々、投資工学開発部では、市場コンセンサスの業績予想と実際の決算結果を比較するミクロ・サプライズ指数を計算しています。そこで、同指数を使って市場全体と業種別の傾向を見てみましょう。ミクロ・サプライズ指数は四半期で行われる決算発表の時に、営業利益の実績値が、事前のアナリスト予想より大きく上回って着地した銘柄数から、大きく下回って着地した銘柄数を引き、その数値を分析対象の銘柄数で割って求めます。
グラフが0%より上方にあることは、営業利益の実績値が、事前予想より上方で着地した銘柄が多かったことを表します。セルサイドアナリストが3人以上フォローしている銘柄を対象に東証1部企業全体の傾向を見てみましょう。
TOPIXの推移と並べて見ると、ミクロ・サプライズ指数の山と谷が概ね連動していることが分かります。事前予想に比べて、決算で公表された結果が“悪かった銘柄”が多い時には、相場が下げて、逆に“良かった銘柄”が多い時には、相場が上場する傾向です。そして、足元のグラフの動きは0%を超えていることが確認できます(図表1中の黒丸部分)。これは、市場で織り込まれているアナリスト予想と比べると、ポジティブサプライズを示す銘柄が多いことを表しています。ただ、“方向”はやや低下しています。これは市場で業績回復への期待が高まるなか、その期待を上回るほどの決算を報告することが難しくなってきたからだと見られます。
このような環境での投資戦略は、業種などの物色の選別が重要です。
そこで、業種別にミクロ・サプライズ指数を集計して見ました。ここでは東証33業種別に、事前予想より大きく上回って着地した銘柄数から、大きく下回って着地した銘柄数を引き、その数値を分析対象の銘柄数で割って求めました。図表1で特に気になった点は指数の“方向”でした。そこで、業種で集計した値についても上昇しているのか、下落しているのかの方向に着目しました。
結果は図表2です。足元が3月期決算企業の第2Q決算発表後のミクロ・サプライズ指数の値になるため、第1Q決算発表後の5月末時点との比較を行いました。ミクロサプライズ指数が上昇した業種には、医薬品や小売業といったコロナ禍で厳しい環境だった業種も上位に見られます。これらの業種は足元の回復が事前の想定を上回る業種として注目されます。一方、下落している業種のトップは機械でした。これまで好調な業種の代表でしたが、今後は注意が必要となるかもしれません。
図表2:東証33業種別にみたミクロ・サプライズ指数の5月末(1Q決算発表後)と足元(11月19日)との比較
上昇 | 下落 | |||
---|---|---|---|---|
1 | 医薬品 | 9.1% | 機械 | -31.2% |
2 | 精密機器 | 3.5% | 非鉄金属 | -27.9% |
3 | 小売業 | 2.4% | 化学 | -18.6% |
4 | サービス業 | 1.3% | 食料品 | -15.5% |
5 | 陸運業 | 0.0% | 建設業 | -14.9% |
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