吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
No.23
業種物色はモメンタム、個別物色はリバーサル
2021年07月02日号
投資工学開発部
吉野 貴晶
金融情報誌「日経ヴェリタス」アナリストランキングのクオンツ部門で16年連続で1位を獲得。ビックデータやAI(人工知能)を使った運用モデルの開発から、身の回りの意外なデータを使った経済や株価予測まで、幅広く計量手法を駆使した分析や予測を行う。
- 足元にかけてはモメンタム、リバーサルが分かり難い状況。
- 当面は、業種物色はモメンタム、業種要因を除いた個別物色はリバーサル優位の可能性。
昨年からのコロナ禍以降、モメンタム投資とリバーサル投資のどちらが効果的なのか見えにくくなっています。モメンタム投資とは、”他の銘柄と比べて株価が上昇してきた銘柄に投資して、今後も株価上昇を期待する投資”方法です。反対にリバーサル投資は、”他の銘柄と比べて、株価が下落してきた銘柄に投資して、株価のリバウンドを期待する投資”方法です。
まずは、足元の傾向を確認しましょう。図1の棒グラフはモメンタム投資のパフォーマンスです。グラフの作り方は次のようになります。まず、2,200銘柄程度ある東証1部上場企業のなかで、毎月末時点で、3カ月間のリターンを基準に上位3分の1に入る銘柄を買い(ロング)して、一方で、下位3分の1に入る銘柄を売り(ショート)する戦略を考えます。このロングショート戦略の翌月のパフォーマンスが図1の棒グラフです。この棒グラフを毎月、積み上げていったものが図1の折れ線グラフです。この折れ線グラフが上昇している場面は”モメンタム優位”、反対に下落していると”リバーサル優位”の場面となります。足元(図1中の〇印)は方向感が見えにくく、どちらが優位とも言えない状況になっています。
次に、今後、モメンタムとリバーサルかのどちらが優勢となるかを予測するために、モメンタム/リバーサルの効果を”業種“と”業種要因を除いた個別銘柄“の2つの観点で分けて見てみましょう。図2は、業種について、東証33業種のリターンデータを使って、3カ月間の業種リターンの上位3分の1業種をロング、下位3分の1業種をショートする戦略の累積パフォーマンスの推移です。図1の折れ線グラフと同様に上昇していると、“モメンタム優位”、下落していると“リバーサル優位”の局面となります。このグラフを観察すると、図1とは傾向が異なることが分かります。特徴的な点は、トレンドとして右肩上がりということです。すなわち“業種“リターンは趨勢的にはモメンタム傾向ということが分かります。
これと対照的なのが、”業種要因を除いた個別銘柄“です。業種要因を除くため、東証1部企業を対象に毎月末時点で、その時までの3カ月間の株式リターンを使いますが、”33業種の区分のなかで”上位3分の1に入る銘柄をロング、同業種区分のなかで下位3分の1に入る銘柄をショートする戦略を見ています。累積パフォーマンスのグラフは図2と異なり、趨勢性に下落しており、リバーサル優位の傾向を示しています。
これまでの分析結果から、「業種リターンに関してはモメンタム優位、業種を除いた個別銘柄についてはリバーサル優位」、であるということが分かりました。
なぜ、このような傾向となるのでしょうか、次のような理由が考えられると思います。その時の経済環境のなかで景気や相場のリード役となる業種は異なります。例えば、足元で言えば、コロナ禍で進むIT化の流れで情報通信やソーシャルディスタンシング確保などの観点から自動車業界などが注目されている一方、旅行業界などは厳しい状況です。景気の牽引役として期待される業種とそうでない業種で二極化する傾向が見られています。この傾向は、基本的なトレンドとして存在し、これがモメンタム優位トレンドにつながっていると考えています。一方、個別銘柄の動きに関しては、経済環境によっては業種内で勝ち組と負け組が広がる場面も見られます。しかし、勝ち組だと思われるビジネスに関して、成功すると他企業に追随されてために競争が激しくなり価格低下の圧力がかかり、利益率低下につながるケースが少なくありません。こう考えると、長期にわたって勝ち組であり続けることは、余程の競争優位の源泉が無い限り難しく、よって株価モメンタムが続きにくくなるといえるのでしょう。
とは言え、図2の業種リターンに関してもリバーサル優位となる場面があり、図3の業種要因を除く個別銘柄リターンに関してもモメンタム優位の場面があります。これらは景気局面との関係から次のような状況で見られると推察されます。
- 業種リターンでは、景気の「谷」からの景気回復の初期でリバーサル現象が見られます。
- 業種要因を除いた個別銘柄リターンでは、景気の「山」まで2~3年程度の景気回復過程の後期でモメンタム現象が見られます。なお、図3では2015年9月にかけてモメンタム優位の場面が見られていますが、同局面では内閣府が発表する景気基準日付で山にはなっていません。当時を振り返ると米国経済の足踏みや中国経済の失速懸念、2016年6月のBREXIT決定に向けて国内景気が弱含み、図3の景気動向累積DIの推移は調整が見られています。2015年9月にかけてのモメンタム優位は景気動向累積DIの山に向けたモメンタム優位として捉えられます。
では、何故、上述の傾向となるのでしょうか。(1)となる傾向に関してですが、景気の「谷」からの回復場面ではそれまでの景気後退期で厳しかった業界が全体的にリバウンドする傾向が見られるからです。(2)の景気が山に向けた回復終盤で、業種要因を除いた個別銘柄のリターンがモメンタム優位となる傾向に関しては、景気回復終盤では、多くの銘柄の業績の伸びが鈍化するなかで、一部の将来に向けた高成長銘柄に対して持続的に注目が集まり、株価がモメンタムで動くと考えられるからです。
さて、足元の傾向を見てみましょう。図2の業種リターンに関してはモメンタム(図2中の○印でグラフが上昇)、図3から業種要因を除いた個別銘柄リターンはややリバーサル(図3中の○印でグラフが下落)となっています。
コロナ禍の影響で、2020年6月に景気動向累積DIが底を見せています。足元の景気動向累積DIは2020年6月から反発していることから、上述の(1)の観点では、業種リターンに関しては、本来はリバーサルが見込まれる状況です。しかし、実際には図2の直近(○印)に示されるようにモメンタム優位となっています。前述の通り、業種リターンは趨勢的にモメンタム優位であるため、これには整合しています。恐らく足元では、景気動向DIなどの指標面では回復していますが、人々の景気回復の実感が持ちにくいことが背景にあるのかもしれません。今回のコロナ禍で旅行業界など厳しい状況となりました。こうした業種リターンのリバーサルは、人々の行動への制約への緩和など足元の環境の変化が本格的に見えてくることが必要なのかもしれません。
当面は、業種リターンはモメンタム優位、業種効果を除いた個別銘柄リターンはリバーサル優位となる長期的な関係に整合した投資戦略が効果的と見られます。6月21日までの3カ月間で33業種リターンが高かった、上位3業種は海運業(27%)、ゴム製品(11%)、精密機器(6%)です。こうした上位業種のなかで、出遅れた銘柄のリバーサル投資が期待される場面と見られます。
吉野貴晶の『景気や株価の意外な法則』
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