金融市場NOW

デンマーク・カバード債券の足元の状況について

2021年08月18日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

欧米長期金利の上昇が一服

  • 米国バイデン政権の経済対策による景気回復期待や、新型コロナウイルスワクチン接種の進展による経済活動の正常化期待などを背景に、2021年後半にかけてインフレ圧力が高まるとの見方から、米長期金利(米国10年国債利回り)は一時1.74%まで上昇しました。しかし米連邦準備制度理事会(FRB)は、量的緩和の縮小を始める条件として『雇用最大化と物価安定の目標に向けた著しい進展』を挙げており、引き続き『物価上昇は一時的』との認識を示しています。また、新型コロナウイルスで感染力が強いとされるデルタ型による感染拡大で景気回復ペースが鈍るとの懸念もあり、足元では1.20~1.30%台前後を推移しています(グラフ1)。
  • 欧州でもワクチン接種が進み、景気回復期待が高まっていることや、欧州中央銀行(ECB)による資金供給策の縮小が意識されたことなどから、欧州長期金利(ドイツ10年国債利回り)も緩やかな上昇基調で推移してきました。米金融当局と同様、ECBも『足元のインフレ上昇は一過性のもの』との認識を継続しており、ラガルド総裁は『緊急対応策であるパンデミック緊急買入プログラム(PEPP)の資産購入縮小の議論は、時期尚早』と強調しています。5月中旬の取引時間中に、一時マイナス0.1%を超える水準まで上昇した欧州長期金利は7月下旬以降、マイナス0.5%前後で推移しています(グラフ1)。

グラフ1:欧米の国債とデンマーク・カバード債券の推移

  • デンマーク・カバード債券:ニクレディトDMBトータルリターンインデックス(現地通貨ベース)
  • 米国国債、ドイツ国債:FTSE世界国債インデックスの各国国債インデックス(トータルリターン、現地通貨ベース)
  • 出所:ブルームバーグ等のデータをもとにニッセイアセットマネジメント作成

金利上昇の落ち着きとともに欧州債券市場は堅調な地合いを継続

  • 5月月初より上昇基調を強めていた欧州長期金利(ドイツ10年国債利回り)は、5月13日の取引時間中には一時マイナス0.1%を上抜けるまで上昇し、デンマーク・カバード債券の利回りも欧州長期金利に連れて上昇しました(債券価格は下落)(グラフ1、2)。
  • デンマーク・カバード債券は、一般に、金利上昇局面では期限前償還が減少するため、デュレーションが長くなるという特性があります。金利上昇局面においては、デンマーク・カバード債券のこの特性がマイナスとなり、国債対比で大幅下落しましたが、5月末以降、金利上昇の落ち着きとともに低クーポン債を中心に上昇基調となっています(グラフ2)。クーポン別では、2.0%債に比べて相対的にデュレーションが長いとされる1.5%債や1.0%債の上昇が顕著となっています(グラフ2)。
  • 経済活動の正常化にともなうインフレ懸念を背景に、世界的に金融緩和策の出口が意識され始めているものの、ECBは金融緩和継続の必要性を改めて強調していることから当面は慎重に金融政策の運営を行っていくことが想定され、欧州債券市場は堅調な地合いが継続するものとみられます。
  • 金利の変動に対する債券の価格変動の大きさを表す。一般に、デュレーションが長い債券ほど金利の動きに対する債券価格の感応度 は大きくなる。

グラフ2:クーポン別デンマーク・カバード債券価格の動向

  • ※ニクレディト・レアルクレディト(2050年10月償還)クーポン別デンマーク・カバード債券価格の推移
  • 出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメント作成

デンマーク・カバード債券の発行額はピークアウト

  • デンマークでは、新型コロナウイルスの感染防止策のための在宅勤務、ホームオフィスのための空間確保などの理由により大きな家屋への住み替えや、セカンドハウスや別荘の購入需要が高まりました。金利が上昇基調を強め始めた2021年3月以降も住宅ローンの借入れニーズは減退することなく、デンマーク・カバード債券の月間発行額は高水準で推移してきました。なお、足元、6、7月の月間発行額は、直近のピークである4月(約5,400億ユーロ)の6~7割程度の発行額にとどまっています。
  • デンマークでは、ワクチン接種の進展とともに経済活動は正常化に向かいつつあることから、今後は、感染防止策のための過度な住宅需要は抑制されることが予想され、供給過剰(債券発行量の増加)による債券価格の下押し圧力は弱まっていくことが予想されます。
  • 一方、金利上昇の一服とともに、今後は、住宅ローンの借り換え件数がやや増加する可能性があり、期限前償還リスクが高まることも想定されます。2021年7月の期限前償還(借換え申請の締切:2021年4月末)は、230億デンマーク・クローネとなりました(グラフ3)。今後、金利低下による借り換えが増加する可能性もあるものの、一昨年の借り換え一巡により、借り換えニーズは少なくなることが見込まれており、期限前償還は限定的なものにとどまることが予想されます。

グラフ3:デンマーク・カバード債券の期限前償還額の推移

  • 出所:ダンスケ銀行のデータをもとにニッセイアセットマネジメント作成

“ウィズ”・ “アフター”コロナのデンマーク経済

  • デンマークは、イタリアに次ぎ欧州で2番目にロックダウン(都市封鎖)を行いました。また、ロックダウンの後、大規模な検査体制を早急に整えることで、国内の新型コロナウイルスの感染の抑制に努めてきました。
  • 強固な財政基盤を活用して早期の対策を講じたことで、新型コロナウイルス感染拡大の影響を比較的軽微に抑えました。2021年4月以降、一部の行動制限を解除するなど、経済活動の段階的な再開に動き始めています。

接種の進展で経済活動の正常化が期待される

グラフ4:デンマークのワクチン接種率の推移

  • ※1回以上ワクチン接種を終えた人口の割合
  • 出所:Our World in Dataのデータをもとにニッセイアセットマネジメント作成

デンマークの新型コロナウイルス感染者数は、ロックダウンをはじめとした早期対策が機能した結果、欧州域内でも比較的抑えられているようです。デンマークでは2020年末よりワクチン接種が開始され、政府は、2021年8月末までに12歳以上の全国民のワクチン接種を完了させる目標を掲げています。欧州連合(EU)加盟国の中でも接種率が高い国の1つで、全人口のうち1回以上接種を終えた人口の割合は74.8%(2021年8月16日時点)となっています(グラフ4)。感染力が強いデルタ型による感染拡大には注意が必要ではあるものの、接種の進展により経済活動のさらなる正常化が期待されます。

コロナと共存する社会が整いつつある

グラフ5:サービス業および製造業の景況感の推移

  • 出所:ブルームバーグのデータをもとにニッセイアセットマネジメント作成

デンマークは、政府が企業に対し多額の補償を早期に打ち出したことや、手厚い社会保障により、他の欧州諸国と比べコロナによる経済的打撃を限定的にとどめることができたと言われています。2021年4月下旬より美術館などの娯楽・商業施設が営業を再開するにあたり、大型施設の側にコロナ検査場を設けるなど、政府が推奨する週2回の検査を、国民がすぐに受けられる体制を早急に整備しました。現在も、集会人数の上限や飲食店等の営業時間の制限がされており、引き続き人と接することが多いサービス業を中心に苦戦を強いられることが予想されるものの(グラフ5)、デンマークは他国に先駆けてコロナと共存する社会が整いつつあるようです。

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