金融市場NOW
合意なきEU離脱に身構える英国
2018年08月17日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
離脱交渉が暗礁に乗り上げる中、英国内外で合意なき離脱への備えが進む
- 合意なき離脱の可能性が高まる中、今月利上げが行われた中でもポンド安が進んでいる。
- 8月16日に交渉再開される中、合意なき離脱に備え英国内外で様々な動きがあるが、離脱による影響は想定しづらい部分が多く、交渉の進展に注目が集まる。
英国が示した離脱方針をEU側は一部評価しながらも、多くの疑問があるとコメント
英国のEU(欧州連合)離脱交渉が暗礁に乗り上げ、2019年3月の離脱が迫る中、合意なき離脱の可能性が高まってきています。7月に公表された離脱方針を示した英国の白書について、EU側は建設的な議論に繋がると評価しながらも、多くの疑問があるとし、提案されたモノ自由貿易圏について、英国によるEU関税の代替徴収はEU側がこれを拒否しました。欧州委員会は『合意なき』離脱を想定すべきメインシナリオの一つとして考え始めたようです。また、8月の金融政策決定会合で利上げを決定したイングランド銀行カーニー総裁は「合意なき離脱のリスクは不快なほど高い」と発言し、ポンドは対ドルで下落しています。一方で、メイ首相を始め英国政府要人は、仏マクロン大統領との会談や下半期の輪番制EU理事会議長国で重要な役割を担うオーストリア、国内では地域政党の地盤の強いスコットランドへ訪問し政府方針への理解を求めています。しかし英国内の直近の一部の調査では、2016年の離脱を問う国民投票の際に離脱を支持した110選挙区以上が、今現在では残留を支持しており、下院の過半数以上の選挙区が残留を支持しているとの結果が出ました。これを受けて、メイ首相の政権基盤の弱体化が危惧されており、国民投票や選挙への決断を迫られる可能性もあるとの指摘もあります。ただ、投票の争点が離脱そのものの是非を問うのか、(離脱を前提とし)離脱条件を問うものなのか議論が錯綜している状況です。
16日から離脱交渉が再開。交渉の期限の目処とされる10月までになんらかの進展はあるのか
合意なき離脱の可能性の高まりを受けて、英国企業200社への調査では93%近くの企業が2019年度は減益となることを想定しており、商品や原材料などの備蓄に動く企業も出ているようです。60%の企業がIT投資を増加させ生産性などの向上に努めると答え、不測の事態へ備えている様子が窺えます。また、合意なき離脱により物資の輸送などが麻痺し問題が生じた場合に備え、軍が食物や医薬品、燃料の輸送を協力する施策を検討との報道もあります。金融の中心地ロンドンのシティでは、合意なき離脱により当初数万人もの職が奪われるとされていた想定が直近一部調査では想定より少ない(多くても1万人程度)との結果も出ています。16日から再開される交渉を前にハント外務相は「合意なき離脱は短期間で英経済に大きな影響を及ぼすが、乗り切る方法を必ず見つけ出すだろう」としながらも、「(合意なき離脱は)英国のみの大きな過ちに限らずEUにとっても大きな過ちになるだろう」との発言がありました。トルコなど新興国通貨下落により世界のマーケットの動きが大きくなる中、交渉の期限とされる10月が2ヵ月あまりに迫る中、交渉の進展に世界の投資家の注目が集まるものと思われます。
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