金融市場NOW
新型コロナウイルス感染拡大 英EU貿易協議にも影響
2020年04月21日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
感染拡大に終息の兆しが見えない中、英国政府は移行期間の延長を否定
- 新型コロナウイルス感染拡大に終息の兆しが見えない中、英国とEUによる通商協定の交渉が当初の日程から延期。6月の大枠合意目標に変更はないが、年末の移行期間終了までの合意を懸念する声も。
- 来年の景気回復が期待される中、交渉の難航や決裂が新たな市場の波乱材料となる可能性も。
感染拡大で直接交渉がままならず
新型コロナウイルス感染拡大により延期されていた英国とEU(欧州連合)の通商協定交渉が、15日ビデオ会議で実施されました。3月2日の第1ラウンドを皮切りに3週間に1度のペースで協議が予定されていましたが、当初予定されていた第2、第3ラウンドは感染拡大により直接面談が難しいとの理由などから延期されました。この間EU側の主席交渉官が新型コロナウイルスに感染し、英国側の主席交渉官も感染の症状を訴えるなど、世界的な感染拡大の影響を大きく受けることとなりました。
15日の交渉では、4月20日から6月まで3回の交渉を実施することが決められ、当初予定されていたとおり6月の大枠合意目標に変更がないことが確認されました(表1)。
表1:交渉日程等
日程 | 内容 |
---|---|
4月20日~ | 第2ラウンド交渉(4月20日に始まる週内に実施予定) |
4月23日 | EU首脳会議 |
5月11日~ | 第3ラウンド交渉(5月11日に始まる週内に実施予定) |
6月1日~ | 第4ラウンド交渉(6月1日に始まる週内に実施予定:大枠合意目標) |
6月18日 | EU理事会 |
7月1日 | 移行期間延長(2022年まで)希望の申請期限 |
10月15日 | EU理事会 |
11月26日 | 年内批准に向けた欧州議会への通商協定提示期限 |
12月10日 | EU理事会 |
12月31日 | 移行期間終了 |
英国政権は強気な姿勢維持
英国は感染拡大に終息の兆しが見えない中でも、今年12月末の移行期間(激変緩和措置として離脱前の状態が維持される期間)を延期しないことを強調しました。通商協定がないまま移行期間が終了すれば、双方の貿易品などに関税が発生し、経済活動への大きな影響が想定されます。感染拡大に終息の兆しが見えず、各国政府が対応に追われる中、交渉に万全な体制で臨むことは困難であるとして、英国野党は移行期間の延期を求めています。
英国政府が先に公表した文書では、優先すべきポイントが示され、6月までに大枠で合意されなければ、交渉を打ち切る姿勢を示しています。感染拡大への財政支援策などを巡りEU加盟国間で対立が見られ、一枚岩でない状況を利用すべきとの考えから強気の交渉を求める声も出ています。争点となっている漁業や航空、エネルギーなどでは個別の交渉(EUは包括的な交渉を希望)要求や、競争力のある金融サービスでは規制緩和など独自のルール作りで国際競争力を更に高めたい意向があると思われます。
2021年の景気回復期待に水を差すことにも
IMF(国際通貨基金)から公表された4月時点の世界経済見通しでは、英国、EUともに2020年の成長率予測が大きく下方修正されています。一方で感染拡大が終息するとの見通しから、2021年成長率は回復見通しとなっていますが(表2)、交渉が難航し決裂となれば、景気回復見通しに大きなマイナスの影響を及ぼしかねません。今秋の米大統領選の候補者はトランプ大統領と穏健派のバイデン氏に絞りこまれ、大統領選が市場の波乱材料となる可能性が低くなったと想定される中、交渉の進捗状況は、新たな不透明要因として年末から来年かけての大きな波乱材料となることも想定されます。
表2:IMF世界経済見通し(4月時点)成長率予測
2019年(推計)(前年比) | 見通し(前年比) | 前回(2020年1月時点)との比較 | |||
---|---|---|---|---|---|
2020年 | 2021年 | 2020年 | 2021年 | ||
英国 | 1.4 | -6.5 | 4.0 | -7.9 | 2.5 |
ユーロ圏 | 1.2 | -7.5 | 4.7 | -8.8 | 3.3 |
ドイツ | 0.6 | -7.0 | 5.2 | -8.1 | 3.8 |
フランス | 1.3 | -7.2 | 4.5 | -8.5 | 3.2 |
イタリア | 0.3 | -9.1 | 4.8 | -9.6 | 4.1 |
スペイン | 2.0 | -8.0 | 4.3 | -9.6 | 2.7 |
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