金融市場NOW
米インフラ法案上院で可決も道のりは不透明
2021年08月20日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
気候変動対策を含む3.5兆ドル規模の歳出法案との同時成立狙いか
- 米上院はインフラ法案を可決、下院可決を経て成立の見通し。民主党執行部は3.5兆ドル規模の歳出法案との両法案成立を目指すが、財源や多額の歳出に異論の声もあり法案成立の行方は不透明な状況。
- 歳出法案の財源確保のための増税が見送られ、多額の国債増発となれば、米長期金利は上昇の可能性も。
バイデン政権は2法案の成立を目指す
米国議会上院は、約1兆ドル(前政権以前に承認された予算を含む。新規歳出は約5,500億ドル)のインフラ法案を可決しました。法案は与野党の超党派によってまとめられ、老朽化した道路・橋の整備、鉄道網、水道整備などのインフラ投資を目的とします(表1)。今後法案が下院で可決されれば、成立することとなります。また、インフラ法案とは別に3.5兆ドル規模の気候変動対策や子育て支援策など人的投資を柱とした歳出法案の審議入りも上院で承認されました。
バイデン政権は是が非でも両法案を成立させたい意向があるとみられます。しかし、歳出法案は、計画段階では企業や富裕層への増税により財源を全額賄うとされています。3.5兆ドル規模にも相当する企業などへの増税はコロナ禍から回復基調にある米景気を下押ししかねず、そもそも多額の気候変動対策や人的投資の必要性に疑問符を付ける共和党や民主党穏健派から法案に難色を示す声が上がっています。
表1:インフラ法案(新規歳出部分)の概要
主な項目 | 金額 |
---|---|
道路・橋整備 | 1,100億ドル |
旅客・貨物鉄道網整備 | 660億ドル |
高速通信網の整備 | 650億ドル |
水道インフラの整備 | 540億ドル |
公共交通網の整備 | 392億ドル |
電気自動車充電設備・エコカー整備等 | 150億ドル |
その他 | 1,999億ドル |
合計 | 5,491億ドル |
歳出法案の歳出規模は縮小される可能性も
民主党執行部は、党内の歳出法案支持の目途が立つまで、インフラ法案の下院採決を敢えて留保し、党内調整を進める姿勢を示しています。しかし少なくとも上院で2名、下院で9名が歳出法案の規模が大きすぎると異論を唱え、インフラ法案成立を優先すべきとの態度を示し、両法案の成立が不透明な状況となっています。一方でリベラル派が押し進める子育て支援策を含む歳出法案には、郊外の選挙区選出の議員から法案の必要性を訴える声が出ています。
下院休会明けの8月23日以降、インフラ法案の採決や歳出法案の審議が再開される模様ですが、与野党議席は拮抗しており、両法案成立には民主党のほぼ全議員の賛成が不可欠となっています。今後歳出法案は、審議過程で党内調整により歳出規模が縮小され、人的投資や気候変動対策などの項目が見直されることも想定されます。
9月下旬にかけて長期金利上昇も
下院での採決を残す1兆ドル規模のインフラ法案は、議会予算局の試算では、法案成立により10年間で合計2,561億ドル財政赤字が拡大すると公表されました(グラフ1)。米国はこれまで新型コロナウイルス対策として約6兆ドルの財政出動を行っており、GDP(国内総生産)比で約30%となっています。
今年春先のインフレ懸念により一時1.7%台に上昇した米長期金利は、物価上昇は一時的との見方から、テーパリング(量的緩和縮小)の早期開始懸念が後退し、足元では1.2%台まで低下しています。しかし、インフラ法案成立による財政赤字拡大に加え、歳出法案の財源が増税から多額の国債発行へと変更されることとなれば、米長期金利は審議が本格化する9月下旬にかけて再び上昇することも想定されます。
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