金融市場NOW

1.9兆ドル規模の追加経済対策が成立

2021年03月12日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

バイデン大統領が11日午後署名し成立

  • 一人あたり最大1,400ドルの個人向け給付を含む1.9兆ドル規模の追加経済対策が米議会で可決。
  • 景気回復が想定される中での巨額の経済対策は景気を過熱させるとの声もあるが、政府は雇用の回復を優先する姿勢。政策材料は一旦出尽くしとなるものの、インフラ投資政策などは米金利押し上げ要因となる可能性も。

最低時給引上げは盛り込まれず

10日米国議会で、バイデン新政権が推し進める1.9兆ドル規模の追加経済対策(ARP:アメリカ救済計画)が可決されました。法案は、下院可決案を上院で修正可決し、修正案を下院で再可決しました。バイデン大統領が11日の午後、署名し成立しました。目標であった現行の失業者支援策が期限切れとなる14日に間に合う形となりました。

追加経済対策には、所得に応じた一人あたり最大1,400ドルの個人向け給付金支給や失業保険の上乗せ、州・地方政府への支援金などが含まれます。上院では、民主党単独で可決可能な財政調整法スキーム(財政赤字削減と関係のない規定は不可)を利用したため、民主党左派が主張していた最低時給引上げは法案から除外されました(表1)。

表1:追加経済対策の概要

  • 3/10時点で知り得た情報を基に作成
  • 個人向け給付金・失業保険上乗せは修正減額され詳細が不明なため想定額
  • 出所:各種報道等資料をもとにニッセイアセットマネジメントが作成
主要項目 金額(億ドル) 備考
個人向け給付金 4,000程度 年収8万ドル未満の個人に最大1人あたり1,400ドル支給
失業保険上乗せ 3,000程度 週300ドル上乗せ措置を2021年9月まで延長
州・地方への支援 3,500 州・地方政府への財政支援
学校への補助金 1,300 学校再開に向けた換気設備支援など
ワクチン接種支援 1,600 ワクチン早期接種への支援(接種所・接種車の整備)

景気を過熱させるとの声

成立した追加経済対策の規模、約1.9兆ドルは2019年米GDP(国内総生産)の約9%に匹敵します。CBO(米議会予算局)の試算による2021年の実質GDP成長率は+4.6%に達するとされ、今年半ばには、新型コロナウイルス感染拡⼤前の⽔準を回復すると予測しています(表2)。この試算には追加経済対策は盛り込まれておらず、巨額の経済政策による財政規律の緩みや景気の過熱を懸念する声がサマーズ元財務長官など民主党内からも上がっていました。

バイデン政権は、追加経済対策が景気の過熱を招くリスクがあることを承知しているようです。イエレン財務長官は、経済の緩やかな過熱を容認して労働市場を大きく広げる考えを唱えており、景気回復と比較して回復ペースが鈍い雇用環境の改善を優先する姿勢を示しています。サマーズ氏が主席経済顧問を務めたオバマ政権時、リーマンショックから景気回復を目指す中、経済対策が少額であったことが、その後の景気回復を数年遅らせたとの見方が多く、二の舞を演じたくないとの考えも背景にあるようです。

表2:CBO試算(2021年2月時点)

  • コアインフレ率:変動の大きい食品とエネルギーを除く物価上昇率
  • 出所:CBO資料をもとにニッセイアセットマネジメントが作成
  2021年 2022年 2023年
実質GDP成長率 +4.6% +2.9% +2.2%
失業率 5.7% 5.0% 4.7%
インフレ率 +1.6% +1.8% +1.9%
コアインフレ率 +1.5% +1.8% +1.9%

ひとまず材料出尽くしか

5月末までに全国民分のワクチン確保の見通しが示されるなど、ワクチン普及による経済活動の正常化期待が高まっています。景気回復期待は米長期金利を押し上げ、米国株は不安定な展開となっていましたが、11日の米国株は追加経済対策の成立を好感し上昇、NYダウは史上最高値を更新しました。議論が続けられてきた追加経済対策成立により、市場では経済政策に関する材料は出尽くしとなると思われます。しかし、バイデン政権は早期の景気回復を確実にするため、次なる政策として2兆ドル規模のインフラ投資など更なる財政出動を求める姿勢を示しています。今後も米長期金利を押し上げる要因となる財政出動を巡る議論を注視していく必要があると思われます。

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