金融市場NOW

EU ワクチンの輸出制限措置を導入

2021年02月02日号

金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。

大幅なワクチン生産の遅れから”ワクチン囲い込み”の動き

  • 英アストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチンの生産遅延が発生。
  • EUは同社が域内で生産したワクチンの域外への輸出制限措置導入を公表。“ワクチン囲い込み”の動きによる各国の対立や争奪戦の過熱は早期ワクチン普及を阻害し、景気回復を遅れさせる要因に。

ワクチン生産の遅延が発生

新型コロナウイルスワクチンを生産する英国製薬会社アストラゼネカは、EU(欧州連合)に対して、3月までに予定していたワクチン量の40%程度しか供給できないことを通告しました。当初1億回程度のワクチンの供給を見越し、EMA(欧州医薬品庁)はワクチンを承認しています(表1)。しかし、供給の遅延により欧州域内のワクチン接種計画が後ろ倒しになることが想定されます。ワクチン供給の遅れは、アストラゼネカ社に限らず米ファイザー社でも発生しており、欧州各国はこれまで納品されたワクチンが予定よりも少ないとして法的措置も辞さない姿勢を示しています。

表1:EUのワクチン調達状況(1月31日時点)

  • 出所:欧州委員会のデータをもとにニッセイアセットマネジメント作成
会社名 回数 備考
ファイザー/ビオンテック 6億回 承認済み:当初2億回発注から追加発注など数度に亘り追加の購入契約
モデルナ 最大1億6,000万回 承認済み:含む8,000万回追加購入
アストラゼネカ 最大4億回 承認済み:3月までに4,000万回納入と公表
サノフィ/GSK 最大3億回 承認を前提として契約
ジョンソン・エンド・ジョンソン 最大4億回 承認を前提として契約
キュアバク 4億500万回 承認を前提として契約

ワクチンの輸出制限措置の導入

グラフ1:欧州各国のワクチン接種率

  • 出所:Our World in Dataのデータをもとにニッセイアセットマネジメント作成

EUはアストラゼネカ社と協議を進め、予定された量の供給を求めています。アストラゼネカ社は、原料から生成できたワクチンが当初想定よりも少なかったことを、生産遅延の理由としてEU側に理解を求めています。先に契約している英政府への供給が優先されることを主張しましたが、EU側は納得せず、アストラゼネカ社が他国向けにEU域内で生産したワクチンなどについて輸出制限措置を導入することを公表しました。

世界各国で感染再拡大が続く中、英米でワクチン接種が開始されました。EU諸国でも仏独など一部の国で開始されていますが、接種率が15%程度に達している英国と比較し、EU域内では平均2%程度と接種が進んでいない状況です(グラフ1)。

ワクチン普及の遅れは景気回復の遅れに直結

ワクチン普及の遅れは、景気回復の遅れに直結するとの見方が大勢を占めています。ワクチン接種による年後半の経済活動の正常化期待から、コロナ禍により大きな影響を受けた運輸、飲食、宿泊等のサービス業の業績回復が想定されています。特に、欧州では観光業が盛んな地域が多く、ワクチン普及が同地域の経済活動正常化のカギを握っていると思われます。

26日にIMF(国際通貨基金)が公表した2021年実質GDP(国内総生産)成長率見通しでは、多くのEU諸国の見通しが前回(昨年10月時点)から下方修正されました。感染再拡大によるロックダウン(都市封鎖)がEU諸国の景気回復を遅らせるとされており、EU諸国は早期の経済活動正常化に向けワクチン普及を急ぎたい意向があると思われます。

EUが域内で生産されたワクチンの輸出制限措置を導入したことに対し、河野規制改革相は懸念を表明しました。また、今回の制限措置では新興国を対象外としたものの、新興国からは先進国の“ワクチン囲い込み”の動きを批判する声が出ています。今後ワクチン生産を巡る各国の対立や、争奪戦の過熱により速やかなワクチン普及が阻害されることが懸念されます。ワクチン普及の遅れは、欧州のみならず、世界全体の景気回復をも遅らせることが想定され、概ね堅調に推移する株式市場の調整要因となり得ることには注意が必要です。

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