金融市場NOW
英・EU包括的通商協定 今年中の合意は事実上不可能に
2020年10月20日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
航空などの個別項目で部分的合意を目指し交渉継続
- 英国は難航する新通商協定交渉で部分的な合意を目指し、EU(欧州連合)と交渉を継続することを表明。
- 英国を含む欧州では感染が再拡大しており、経済活動の再制限措置を採らざるを得ない状況。今後も決定的な交渉決裂を避けながら、時間をかけてでも協議を続けていくことを想定。
交渉継続を決定し決裂を回避
英国とEUは、双方に関税が発生しない新通商協定の合意を目指し、実務レベルで第9ラウンド(9月28日~10月2日)まで協議を続けてきました。英国ジョンソン政権は、EUとの新通商協定の交渉最終期限として設定していた15日を過ぎた後も交渉を継続する方針を示しました。英国ジョンソン首相は「EUが(英国の要求と隔たりが大きい)交渉姿勢を変えなかったことが、事実上の(今年中に締結可能な)通商協議を終わらせた。」とEUを非難しました。
各国の協定批准手続き日程から逆算すると、12月末までの移行期間(離脱前の状態が維持される期間)終了前の包括的な通商協定の締結が事実上不可能となりましたが、離脱による双方の混乱を避けるために、航空など個別分野で部分的な合意に向けた交渉が継続される模様です。交渉の成果が得られていないことから、ジョンソン政権の支持率は低下しており交渉継続の意思表示は国内世論を受けての消極的なものであるとの見方もあります。今後の個別項目の交渉においても、早期合意を求める世論の圧力から政権の期待とは程遠い内容での合意を迫られる可能性も燻っているようです。
表1:交渉日程等
日程 | 内容 |
---|---|
9月28日 | 離脱協定を一部無効にする「国内市場法」英国下院で可決 |
9月28日~10月2日 | 実務レベルでの集中協議(第9ラウンド) |
10月14日 | 英国・EU首脳電話会談 |
10月15日~16日 | EU理事会 |
10月31日 | 年内批准のための交渉のデッドライン |
11月26日 | 年内批准に向けた欧州議会への通商協定提示期限 |
12月10日 | EU理事会 |
12月31日 | 移行期間終了 |
譲れない英国領海での漁業権の維持
包括的な通商協定締結が難航する争点の一つとして漁業があげられます。豊富な水産資源を持つ英国領海では、EU各国の水産業者が漁を行っており、その2/3が英国外の業者と言われています。また、英国対岸に位置するフランスの全水産物の約25%は、英国領海で獲られています。
フランスを始め対岸国のスペインやポルトガルは、交渉決裂で漁場を失うことを危惧している模様です。中でもフランス・マクロン大統領は相互の領海へのアクセスや漁獲量の維持などを強い態度で主張しています。漁業が盛んで英国への玄関口となり物流の要所でもあるフランス北部のオー=ド=フランス地域圏での支持基盤が弱いマクロン大統領にとって、同地域の漁業利権などの維持は支持獲得の絶好の機会であると言われています。各国それぞれの思惑が交渉を複雑化させているとも言えそうです。
表2:新通商協定交渉の主な争点
-双方の交渉方針-
◆モノ貿易以外の分野
漁業協定 |
|
---|
◆関税ゼロ貿易維持に必要な競争環境ルール
産業への補助金 |
|
---|
感染再拡大の中、時間をかけて交渉継続か
交渉継続を表明したことで、交渉決裂によるビジネス界などの混乱は当面避けられそうです。継続される個別項目の交渉次第で、移行期間延長など次の展開も想定されます。足元英国・EU双方の景気回復ペースは鈍化傾向にあり、英国を含め欧州各国では新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、再び経済活動の制限措置を採らざるを得なくなっています。これ以上の経済的な悪影響を考慮すれば、時間をかけてでも、決定的な交渉決裂を避けつつ通商協定の交渉を継続していくことが想定されます。
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