金融市場NOW
南欧への財政支援でEU内で意見が対立
2020年03月31日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
EU内での財政支援で北部と南部で意見が分かれる
- ユーロ圏総合PMIが新型コロナウイルスの影響から過去最低水準に。
- ECBは金融緩和や資金供給を行うものの、それでは不十分との声も多く、財政政策に期待が集まる。
- ドイツの財政支出策は好材料。一方、ユーロ共同債やESMを活用した財政支援についてはEU内で意見が分かれる。
ユーロ圏サービス業PMIが激しく落ち込む
世界に蔓延する新型コロナウイルスの影響からユーロ圏は景気後退に陥る可能性が高まったものと思われます。英IHSマークイットが公表した3月のユーロ圏総合PMI(購買担当者指数:速報値)は31.4と前月の51.6から大幅に下落し、記録の残る1998年7月以降で最低の水準となりました。ユーロ圏で実施されている外出禁止や店舗閉鎖の影響から、特にサービス業の落ち込みがひどく、3月の数字は28.4と2月より24.2ポイント下落し、こちらも過去最低水準を記録しています。同時に公表されたドイツとフランスのサービス業PMIも大きく落ち込んでおり、いずれも過去最低水準となっています【グラフ1】。3月30日時点で新型コロナウイルスを原因とする死亡者数が世界一位、二位であるイタリア、スペインも景気悪化がほぼ確実と言われており、足元のユーロ圏の景気は厳しいものとなっているようです。
ECBは金融緩和を実施したが
ECB(欧州中央銀行)は3月の理事会において、2020年末まで資産購入プログラムの拡大や中小企業などの支援のためTLTRO(貸出条件付きの流動性供給オペ)の適用金利引き下げなどを含む包括的な金融支援策を打ち出しました。しかし、今回の感染拡大を防止するには、金融緩和や潤沢な資金供給では不十分との声も多く聞かれており、市場では財政支出の有無に注目が集まっているようです。
南欧への支援については意見が分かれる
財政が困窮しつつあり、新型コロナウイルスの影響が極めて大きいイタリアやスペイン等の南部勢は、ユーロ共同債(EU(欧州連合)加盟国が利払いについて連帯責任を負って発行する超国家的な債券)の発行やESM(欧州安定メカニズム:EUの救済基金)の活用による財政支援を求めていましたが、財政規律を重視するドイツやオランダ等の北部勢の反対により、結論が出ませんでした。新型コロナウイルスの感染拡大という緊急時であるため、何らかの合意があることが期待されましたが、現時点では何一つ決まっていない状況です。財政支出を拒み続けていた欧州一の経済大国であるドイツが総額7,500億ユーロの政策パッケージを承認したことはプラス材料ですが、南欧の財政悪化が見込まれる中、EUが一枚岩でないことは、EUの信認低下につながる可能性があるものと思われます。EUの景気回復には時間がかかりそうです。
表1:新型コロナウイルスの状況(3月30日2時)
感染者数 | 死亡者数 | 死亡率 | |
---|---|---|---|
イタリア | 92,472 | 10,023 | 10.8% |
スペイン | 72,248 | 5,690 | 7.9% |
フランス | 37,145 | 2,311 | 6.2% |
中国 | 82,356 | 3,306 | 4.0% |
米国 | 103,321 | 1,668 | 1.6% |
ドイツ | 52,547 | 389 | 0.7% |
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