金融市場NOW
米国政策を左右するスイングステート
2019年08月13日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
トランプ大統領再選に向けてスイングステートは重要地域
- 「対中国制裁第4弾」の発動表明で米中貿易摩擦が激化。中国向け農産物の生産が多い中西部のスイングステートを重要視する姿勢が、通商政策の背景に見える。
- トランプ大統領は中間選挙で民主党優勢となったスイングステートでの支持を取り戻したいところ。
米国農家のトランプ大統領支持率は高い
トランプ政権は、8月1日「対中国制裁第4弾」として、新たに約3,000億ドル分の中国製品に10%の関税を課すことを公表しました。米中の閣僚協議での進展がなく、中国が農産物の購入(グラフ1)の約束を実行しないことにトランプ大統領は不満を示しました。中国も米国産農産物の輸入停止を国有企業に要請したとする報道もあります。
大豆、豚肉など中国への輸出農産物の生産が盛んなミシガン州、ウィスコンシン州、アイオワ州など中西部の数州はスイングステート(激戦州:両党支持率が拮抗し、選挙毎に勝利政党が変動する州)と呼ばれ、再選を目指すトランプ大統領にとって重要な地域と思われます。トランプ政権でこれまでに打ち出された通商政策は、同地域を念頭に置いていることが感じとれます。また米国農家のトランプ大統領への支持率は、直近でも高い水準を維持し続けているとの調査結果もあります。
トランプ政権下で変わっていく中西部
米国中西部は農業の他、伝統的に自動車産業や鉄鋼産業なども盛んであり、2016年の大統領選では当地域での勝利が、トランプ大統領誕生のカギとなったと言われています。しかしトランプ政権誕生後の好景気により、当地の産業は、かつての中心産業に加えて、ハイテク産業やバイオテクノロジー産業が台頭してきています。そういった状況の元、同地域では若年無党派層の流入が、目立ち、街は変容しつつあると言われます。若年無党派層は、移民問題や米国経済優先の政策よりも、ヘルスケア問題などに関心が高いと見られています。また、トランプ大統領はかつての中心産業の失業者が職を取り戻せる政策を遂行してきましたが、不十分とみなす労働者もいるようです。そういった要因が2018年中間選挙での同地区における民主党の躍進につながったとの見方が大勢です(表1)。2020年の大統領選においても、スイングステートは重要視されているようです。トランプ大統領は民主党候補者が出揃い始めた4月の早い時期からウィスコンシン州で演説を行い、民主党も7月に候補者討論会をミシガン州で開催しています。両党が同地域を重要視している姿勢が窺えます。米中貿易摩擦の激化と長期化が懸念される中、トランプ大統領は中西部農業有権者を意識した米国農産物の輸出増加に向けた取り組みなどで一旦の貿易摩擦鎮静化を図る可能性があります。一方で欧州や北米、日本などへは農業や自動車産業、鉄鋼産業などの通商交渉で、要求を更に強めることも想定されます。中西部有権者のトランプ大統領への支持率や政策への反応などが、米国通商政策の今後を読み解くカギの一つであるものと思われます。
表1:主なスイングステートの2018年中間選挙結果
州名 | 職名 | 所属政党 | 備考 |
---|---|---|---|
ミシガン | 州知事 | 民主党 | 共和党から民主党が奪取 |
上院議員 | 民主党 | 現職勝利 | |
下院議員(全14区) | 共和党 7議席民主党 7議席 | 共和党から民主党が2議席奪取 | |
ウィスコンシン | 州知事 | 民主党 | 共和党から民主党が奪取 |
上院議員 | 民主党 | 現職勝利 | |
下院議員(全8区) | 共和党 5議席民主党 3議席 | 全議席現職議員勝利 | |
アイオワ | 州知事 | 共和党 | 現職勝利 |
上院議員 | 改選議席なし | ||
下院議員(全4区) | 共和党 1議席民主党 3議席 | 共和党から民主党が2議席奪取 |
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