金融市場NOW
米国政権に通商協議や予算審議で課題
2019年06月18日号
- 金融市場の動向や金融市場の旬な話題の分析と解説を行います。
通商、予算、大統領再選に複雑に絡み合う政治的課題
- トランプ政権は対メキシコ関税発動を見送ったものの、USMCA批准は難航が予想される。
- 2020年大統領選での再選を目指すと見られるトランプ大統領は通商面でも予算面でも課題を抱えており、再選に向けた有権者へのアピールを目指すものと思われる。
メキシコへの追加関税は延期
米中貿易摩擦が激化する中、7日米国トランプ政権は不法移民の流入対策で合意しメキシコからの全輸入品への関税発動の見送りを決定しました。今回の関税発動については、国境管理の問題と関税政策は別問題であると与党:共和党からも反対の声が上がり議会の承認が難しく、非常事態宣言により大統領権限の使用も想定されましたが回避されました。関税発動の停止を受けて、メキシコは中断していた北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の議会審議を再開させ、メキシコ議会での批准の見通しを表明しました。一方、米国では下院で多数派を占める民主党が労働基準面などでより厳格な執行規定が必要だと早期の協定の批准に難色を示しているようです。
新年度予算審議でも課題は残る
メキシコとの通商面で課題を抱える中、トランプ政権は公約であるメキシコとの国境の壁の建設費86億ドルを2020年度(2019年10月~2020年9月)予算教書に盛り込みました。2月の非常事態宣言による建設費の支出は、一部の州ではその正当性に対して提訴されており、予算の一部差し止め仮命令も出されています。また予算教書で、国防費を前年度比4.7%増の7,500億ドル規模とする一方で教育省や農務省などの非国防費予算を大幅に削減する予算方針が提案されました(グラフ1)。歳出法案は議会権限で可決されるため、予算教書に強制力はないものの、民主党は国防費の増額と同程度の非国防費の増額を求めています。ただし、年々膨らむ財政赤字や歳出額を抑制するため予算管理法(表1)において財政規律強化策が定められていることから、一部与党議員には財政規律の緩みを懸念する声もあり、予算審議は難航することが予想されています。USMCA以外にも各国との通商協議を抱える米国にとって、対中国では6月末のG20大阪サミット、対日本では米国議会の休会が明ける9月が交渉決着に向けた重要なターニングポイントと見られており、今後数か月間の米国政府の動向に市場参加者が注目するものと思われます。秋以降、2020年大統領選に向けたキャンペーンが本格的に開始されるため、再選を目指すと見られるトランプ大統領は、通商面、予算面などで実績を残し、有権者へのアピールを目指すと思われ、秋に向けて政治を巡る動きが活発化することが想定されます。
表1:予算管理法の概要(2018年2月公表資料)
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行政府に対して3段階(大統領および議会承認などの手続き)の連邦法定債務上限の引き上げ権限を付与⇒オバマ大統領時に権限行使され現在は無効 |
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財政均衡を盛り込んだ憲法改正の1回限り採決を許可⇒議会で否決されたため改正されず |
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国防・非国防など裁量的経費の歳出に2021年度まで上限額を設定。上限額を超えた場合には一律強制歳出削減を発動。 |
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2012年度~2021年度の財政赤字削減案のため両院合同委員会を設置 |
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両院合同委員会が財政赤字削減案で合意できない場合、少なくとも1.2兆ドルの財政赤字削減に向けて2013年度~2021年度まで強制歳出削減を発動⇒実際には予算管理法を上書きし、歳出上限を引き上げる法律を施行 |
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